スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ『死に魅入られた人びと』を読む。

こういう本が読めるというだけで、自分の心にソ連を持っていてよかったと思う。あらゆるページを引用したいぐらいで。

たとえば、自殺した党官僚を語る同僚の話なんかはいかにもソ連の党官僚であって、そこにはたとえシニシズムに縁どられた無関心であっても「思想」があって、個別の事象なんかではなくて常に世界の救済という観点から物事を話すあのロシア的レトリックが、ああソ連だという感じで感動する。

そういう話が出たかと思えば、自分の母が呪術で若さを保っていた過去の思い出を滔々と語る女性が出てきて、こういう土着的(PC?)感じもロシア感である。なんかロシアロシアばっかり言っててあたまおかしいひとみたいだな。

一番すさまじかったのは最終章の女性。大テロルの頃に生まれて、母親が入れられた収容所付属の児童収容施設に入れられて育った女性の話。ソ連という歴史的存在だけが生み出すことのできた詩情というのがそこにはある。