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まだ夕暮れは終わっていなかった。
完全下校時刻まで、まだ30分はある。
たいしたことはできないけれど、少しは準備をしておくべきかもしれない。
私は部室棟へと足を運ぶ。
上履きのゴム製の底が、リノリウムの床にこすれて音が鳴る。規則正しい4拍子のリズム。オレンジ色の廊下にその音がたゆたうように流れて、消える。
二人の生徒がすれ違う。
愉しそうにじゃれあいながら横を通り過ぎる一瞬、彼女たちの沈黙と視線を頬に感じとる。
私の上履きの音が沈黙と視線を痛いほどに保証する。
きっと地球人の感情でいえば、羨望のたぐいなのだと思うことにしている。
あんなにまで、仲の良い親友同士のようなコミュニケイションをしているのだから、地球人のようになりたがっているに違いないのだ。
彼女たちのうすくひらべったい足裏からは出ることのない、重力に押しつけられた私たちだけがでる、足音。
秒針のような規則正しいリズムが、この音を繕う唯一の方法とでもいうかのように私はリズムを崩さない。
究極的には、確信が持てないのだ。
地球人のようになるというのが、彼女たちにとってどういう意味なのか、が。